コラム

2025.05.27

顔をぶつけたら要注意!歯の神経の生死判定と早期受診のポイント

 

 

受傷直後のセルフチェックポイント

歯の動揺度合いの確認方法

顔面を強くぶつけた直後は、まず鏡の前で傷んだ歯を軽く指で触れてみましょう。健康な歯はわずかに動くこともありますが、ごく最小限の可動域(0.1~0.2mm程度)にとどまります。ぶつけた歯がそれ以上にグラグラと揺れる場合には、歯根と歯槽骨を結ぶ靭帯や歯根膜が断裂している可能性が高く、歯髄へのダメージや歯根破折を示唆します。片手で頬を軽く押さえ、もう一方の手の人差し指と親指で歯冠を上下左右にやさしく動かし、「明らかに大きく動く」「動かすと痛みが強まる」と感じたら、なるべく早く歯科医院へ行き、歯の固定(スプリント)や歯根破折の有無をレントゲンで確認してもらうことが必要です。

 

出血・裂傷の有無をチェック

転倒や衝突で顔面を打った際、歯茎や歯間乳頭部、唇の裏側など口腔粘膜に亀裂や裂傷が生じていることがあります。出血が止まりにくい場合は、血腫形成(内出血)や粘膜下の血管損傷を伴っている可能性があり、歯の神経も同時にダメージを受けている恐れがあります。清潔なガーゼを当てて軽く圧迫し、10分以内に止血しない場合や、鮮血がボタボタと出続ける場合は、ただちに歯科医院または口腔外科を受診してください。裂傷部位は感染の温床にもなるため、受傷後早期に適切な縫合処置や抗菌療法が望まれます。傷口を流水で優しく洗い、自己判断で消毒薬を大量に使用すると粘膜を傷めるため、基本はガーゼ圧迫と専門家の診断を優先しましょう。

 

顎関節や周囲組織の腫れ・痛みの観察

顔面外傷では、歯だけでなく顎関節(TMJ)や頬骨、下顎骨骨折を伴う場合があります。口を大きく開けるときに「パキッ」「ガクッ」と音がする、片側だけ開きにくいといった症状は顎関節の脱臼や捻挫を示唆します。また、頬部の腫れや内出血(青あざ)が広範囲に及ぶ場合は、骨折が隠れている可能性があるため注意が必要です。受傷後24時間は氷嚢や氷のうを頬に当て、20分当てて10分休む“アイシング”を繰り返し腫れを抑えますが、腫れが48時間過ぎても引かない、または痛みが強くて食事や会話が困難なときは、医科のCT検査や専門的な口腔外科診断を受けることが望ましいでしょう。自己判断で無理に口を開け閉めしないようにし、顎部を固定する包帯やサポーターを用いて安静を保ちつつ、専門家の診療を早めに受けてください。

 

 

歯の色調変化で分かる神経ダメージ

白濁・灰色化:神経壊死のサイン

顔面打撲後、歯髄への血流が遮断されると、歯内部の神経組織が壊死を始めます。象牙質の水分バランスが崩れ、屈折率が変化することで、歯冠全体が乳白色や灰色に濁って見えるようになります。この変色は外傷後数日から数週間で進行し、透明感が消失した段階で放置すると神経壊死が不可逆的に進行しやすくなります。見た目に灰色化を認めたら、電気歯髄診断や冷温刺激テストで神経の生存状態を詳しく評価し、必要に応じて覆髄(部分的な神経保存)や根管治療(抜髄)を迅速に行うことが、歯を長期維持するうえで重要です。

 

黄褐色の変色:内出血による変色パターン

打撲によって歯髄内の微小血管が破裂すると、漏れ出した血液成分(ヘモグロビン)が象牙質の微細孔に浸透し、黄褐色や茶褐色の帯状変色を引き起こします。多くは外傷後1~2週であらわれ、歯冠の一部だけが変色するケースもあります。黄褐色変色は神経そのものが完全に壊死しているわけではなく、一過性の血液貯留が原因ですが、広範囲にわたる場合は神経機能障害を伴う可能性があります。冷水テストや打診テストで持続的な痛みや過敏反応がないかをチェックし、変色の範囲と反応の持続時間を観察して回復の見込みを判断します。経過観察で色調が薄くなれば経過良好ですが、数か月経っても変色が改善しない場合は神経回復が困難と判断し、根管治療を検討します。

 

透明感低下:象牙質損傷の疑い

外傷直後に「歯がくすんだ」「ガラス越しに曇って見える」ような透明感の低下は、象牙質に微細な亀裂やマイクロクラックが入り、その内部に血漿や細胞液が浸入するために起こります。亀裂面で光の屈折が乱れ、半透明だった歯が白っぽく曇った印象を与えます。痛みや反応が伴わない場合もありますが、破損部から細菌が侵入して二次感染を起こし、遅発性の歯髄炎や歯髄壊死を招くリスクがあります。透明感低下を自覚したらすぐにレントゲン撮影やCO(二酸化炭素)診査を受け、象牙質の亀裂・神経への影響範囲を評価。亀裂の深さが浅ければ部分覆髄で治癒促進を図り、深い亀裂や感染兆候がある場合は早期に根管治療を開始して歯性病巣化を防ぎましょう。

 

 

痛覚・冷温刺激テストの実施方法

冷水テスト:正常神経か過敏神経かを判別

冷水テストは、顔面打撲後の歯髄生死判定で最も基本的な方法です。まず、コップ一杯の冷水(5〜10℃前後)をストローやスポイトで、歯頸部から歯面に1〜2秒ほど当てます。正常な歯髄が生きている場合は「瞬間的なしみる感覚」を受けますが、その痛みは1〜2秒以内に自然と消失します。これに対して、可逆性歯髄炎を起こしている場合は「強い痛みが3〜5秒以上持続」し、非可逆性の炎症や壊死に近いケースでは「冷水を当てても全く感覚がない」あるいは「鈍い痛みだけが残る」といった異常反応が見られます。テスト後は必ず常温の水やぬるま湯で口腔内をすすぎ、歯髄組織へのさらなる刺激を避けながら、持続時間と痛みの強さを詳細に記録し、歯科受診時に医師へ伝えましょう。これにより、早期の歯髄保存処置か根管治療かの判断材料が得られます。

 

熱刺激テスト:慢性炎症の有無を調べる

熱刺激テストは、慢性炎症の進行度合いや歯髄の回復可能性を調べる補助診断法です。温度を45〜55℃に保った塩水や市販の熱刺激ペレットを用い、数秒間だけ患歯の咬合面または側面に触れさせます。健康な歯髄では「あたたかさ」をほんのり感じる程度で、波及痛は生じず、刺激除去後すぐに痛みが消えます。しかし、慢性炎症を起こしている場合は「遅延痛」として、刺激を除去してから10〜30秒程度、鈍い痛みや拍動性の痛みが続く特徴があります。他方、歯髄が壊死に向かっているときは「全く痛みを感じない」無痛反応を示すことがあり、この場合は根管治療が緊急となります。熱刺激テストは冷水テストと併用し、炎症の質・段階を総合的に評価することが肝要です。

 

打診テスト:根尖部の炎症有無と部位特定

打診テストは、根尖性歯周炎の早期発見に有効です。清潔なミラーの柄や専用の打診器で、鏡で見えにくい歯冠の咬合面または側面を軽くトントンと叩きます。正常な歯では「軽い振動とクリック音」のみで痛みはほとんどありませんが、根尖部に炎症や膿瘍がある場合は「鋭いズキズキ痛」が走り、響くような痛みを感じます。痛みの強弱や響く方向性から、頬側根尖・舌側根尖のどちらに病変があるかをある程度絞り込めるため、レントゲン撮影時の撮影角度を調整して病変部位を明確化できます。また、打診テスト後に痛みが数分以上続く場合は急性炎症の可能性が高いため、速やかに抗菌処置や根管治療の準備を行う必要があります。これら三つのテストを組み合わせ、症状の経過や反応時間を詳細に記録することで、歯の神経が生きているか否かを的確に判断し、最適な治療計画を立案できます。

 

 

レントゲン診断のポイント

歯根破折の透過像を見逃さない方法

顔面打撲後に最も注意すべき所見の一つが「歯根破折」です。破折線はレントゲン像上で非常に細く、角度によってはほぼ見えないこともあります。ポイントは「多方向からの撮影」と「高解像度撮影」です。まず、通常のパノラマX線に加え、デンタルX線を用いて縦方向・横方向・45度斜めなど複数角度で撮影し、透過像の有無を比較します。破折線が最も浮き上がって見えるのは「破折面がX線ビームと直交する角度」なので、角度を少しずつ変えながら撮影し、微細な亀裂を見逃さないようにします。さらに、デジタル技術を活用し、ウィンドウレベルやコントラストを最適化して透過像を強調表示することで、肉眼では判断困難な0.1~0.2mmレベルのクラックも検出可能です。破折像を見つけた場合は、速やかに歯根破折専用コーンビームCT(CBCT)撮影を追加し、破折線の走行や深度を3Dで確認することで、保存治療か抜歯かの判断材料とします。

 

根尖病変の早期影像化基準

根尖病変は、歯髄壊死や慢性炎症の結果として根尖部に炎症性の骨吸収が起こる病態です。通常、初期段階では骨吸収が小さく、パノラマX線では像が不鮮明ですが、デンタルX線を用いた3種の技法(パラレル法、バイトウィング法、斜位像)を組み合わせることで病変部位の透過像を早期に描出できます。具体的には、根尖部が透明化して見えるライン径が0.5mm以上になった時点で「早期病変」と判断し、CRPや炎症反応を併せて確認します。さらに、デジタル画像処理でROI(関心領域)を設定し、アルゴリズムによる自動骨吸収量解析を実施。0.2mm単位での吸収量変化を定量化することで、臨床所見より先に病変を捉えることが可能です。早期に根尖病変を把握した場合は、速やかに根管治療計画を立て、抗菌薬封入や水酸化カルシウム貼薬を行うことで症状の進行を抑制します。

 

隣接歯への影響範囲評価

顔面をぶつけた際、外傷歯だけでなく隣在歯や対合歯にも二次的ダメージが波及することがあります。レントゲン診断では、まず「歯間部の歯槽骨ライン」をチェックし、上下顎ともに歯槽頂の高さや形状に左右差がないかを確認します。歯間乳頭部に骨縁下透過像が現れると、歯根膜損傷や根尖病変の波及を示唆します。また、対合歯との咬合関係をデンタルX線で観察し、咬合干渉による歯根先端の圧迫像や歯根膜腔の肥厚を早期に捉えることが重要です。さらに、デジタルパノラマ像の歪み補正機能を活用し、歯と歯の距離を正確に測定。歯列内のわずかなずれでも咬合ストレスの不均衡が生じ、隣在歯の歯根破折や歯周組織への影響リスクが高まります。これらを総合的に評価したうえで、隣接歯にもスプリント固定や保護用マウスピースの装着、あるいは必要に応じた部分的根管治療を計画し、トータルな口腔内ケアを提供します。

 

 

電気歯髄診断とCO診査の活用

電気歯髄診断の手順と閾値設定

電気歯髄診断(EPT)は歯髄内の神経繊維に微弱な電流を流し、反応閾値(mA)を測定することで神経の生死を判断します。当院ではまず歯冠表面に導電ジェルを塗布し、絶縁された歯科用グローブ越しにペン型電極を歯頸部に当てます。もう一方の指先には大きなリファレンス電極を装着し、安全に電流を流します。電流は0mAから徐々に増加し、患者様が「ピリッとした感覚」を訴えた時点の数値を記録。通常、生きている歯髄では反応閾値は20〜80mA程度ですが、神経が過敏炎症を起こしていると10〜20mA程度で反応し、神経壊死が起こっている場合は100mA以上の高閾値で無反応となります。テストは2回繰り返し、反応の再現性を確認することで誤診を防ぎます。

 

一過性反応 vs 持続反応の見分け方

電気歯髄診断における反応の「持続性」も生死判定に有効です。一過性反応は、電流刺激を解除するとすぐに痛みが消える状態で、神経が生きてはいるものの軽度の炎症を伴う可逆性歯髄炎を示唆します。これに対し、刺激除去後も数十秒〜数分にわたって鈍い痛みや拍動痛が続く「持続反応」は、慢性炎症や神経壊死が進行している非可逆性歯髄炎を示しています。テスト後は刺激部位をすぐに綿球やガーゼで冷却し、電気の影響を最小化。反応時間と痛みの性状(鋭い・鈍い・拍動性)を細かく記録し、根管治療や覆髄といった次の治療ステップを決定する重要な根拠とします。

 

CO(二酸化炭素)診査で神経回復力を評価

CO診査は、二酸化炭素(CO₂)ガスを用いて刺激抵抗の変化を観察する検査法で、生きた神経繊維の回復力を評価できます。専用のCO₂発生装置から低刺激量のガスを歯面にパルス状に当て、患者様に感じるしみる感覚の有無と持続時間を測定します。CO₂は冷水よりも温和な刺激で、冷水テストや電気診断で無反応を示した場合でも、CO₂では微細な反応を拾うことで「まだ神経が生きているか」「回復の余地があるか」を判別可能です。具体的には、刺激後10秒以内に痛みが消失すれば回復力ありと判断し、部分覆髄やMTA覆髄を優先。反応が全くない、または30秒以上持続する場合は神経壊死と判断し、抜髄・根管治療を速やかに計画します。CO₂診査は痛みが少なく、高齢者や小児でも実施しやすい点が特長です。

 

 

受傷後24~48時間の経過観察で要注意なサイン

・持続する拍動性痛と神経壊死リスク

外傷直後の痛みは一過性ですが、24~48時間を過ぎても「ズキズキ」「ドクドク」と心拍に同期する拍動性痛が続く場合、歯髄内で血流障害や炎症が進行しているサインです。通常、痛みは打撲直後から数時間内にピークを迎え、その後徐々に軽快しますが、持続性の拍動性痛は歯髄組織のうっ血や微小血管破裂、さらには神経壊死のリスクを示唆します。この段階で適切な鎮痛薬を服用しても痛みが緩和しない場合は、歯髄内圧が上昇し、組織の虚血性変性が起きている可能性が高いため、早急に歯科医院で電気歯髄診断やCO₂診査を受け、神経生死の精密判定と適切な治療(覆髄や根管治療)の検討が必要です。また、痛みの部位を歯冠全体ではなく根尖部に感じる場合は、歯根膜や歯槽骨への炎症波及も疑い、レントゲン診断を併用して原因を特定します。

 

・晩発性変色のメカニズム

打撲による歯髄損傷では、外傷直後よりも1~2週間経過した後に歯冠が黄色や茶褐色、灰色へと変色する「晩発性変色」がみられます。これは歯髄内の微小血管が破壊され、漏れ出た血液成分(ヘモグロビン)が象牙質の微細孔を介して浸透・分解されることで生じる現象です。初期段階は象牙質内部に赤褐色の帯状影として現れ、さらに時間が経つと鉄分を含むメラニン様色素へと変化し、恒常的な変色となります。晩発性変色は必ずしも神経壊死を示すわけではありませんが、変色の範囲が広いほど歯髄の回復力が低下し、可逆性炎症から非可逆性炎症へ移行するリスクが高まります。変色を自覚したら、初期の色調変化を放置せずに歯髄診断を再度行い、必要に応じて部分覆髄や根管治療などの早期介入を検討することが推奨されます。

 

・腫脹やフィステル形成の兆候

外傷後の歯髄損傷が進行すると、歯髄炎や根尖性歯周炎へと発展し、歯肉や歯槽骨周囲に炎症性浮腫(腫脹)や膿瘍(アブセス)を伴うことがあります。特に、歯肉に小さな膿瘍口(フィステル)が形成され、膿汁が排出される場合は歯髄壊死から根尖性病変への進行を意味します。腫脹は頬部や口蓋部にも広がることがあり、頬が左右非対称になる、顎関節の開閉時に痛みや抵抗を感じる、といった症状が現れます。これらは局所的な炎症反応が限局せず、歯槽骨を介して周囲組織に波及している証拠で、抗菌薬の投与やデブリードマン(汚染組織除去)、根管治療による膿汁排出路の確保が不可欠です。腫脹やフィステルの発見は、歯科治療の緊急度を高める重要な判断基準となるため、自己判断せず速やかに専門医を受診しましょう。

 

 

応急処置と自宅ケアのポイント

精密根管治療後のケアとメンテナンス

・歯の固定(スプリント)のセルフ方法

顔面を打った直後、歯がグラついて抜けそうな場合は、まず清潔な歯間ブラシやデンタルフロス、あるいは市販の歯科用ワイヤーキットを使って、損傷歯と隣接する健全歯を“仮固定”します。具体的には、損傷歯の歯冠近くにワイヤーやフロスを一周回し、隣の歯と結びつけて揺れを抑制。結び目は頬側や舌側ではなく、咬合面手前に置くことで粘膜刺激を避けます。さらに、歯とワイヤーの間には歯科用ワックス(オーラルワックス)を盛ってクッションを作り、強い力が直接かからないように調整。固定後は硬い物を噛むとスプリントが外れてしまうため、次の食事までに必ず歯科医院を受診し、プロによる正確なスプリントや歯科用レジン固定に替えてもらいましょう。

 

・うがい薬・抗菌ジェルの使い分け

外傷によって口腔内に傷がある場合、強力なアルコール洗口液は刺激が強すぎるため避け、無糖・低アルコールタイプの洗口液(クロルヘキシジン0.12%等)を1日2回、食後と就寝前に30秒程度ブクブクうがいします。細菌の増殖を抑えるほか、炎症部位の清潔を保ちます。抗菌ジェル(塩化ベンザルコニウムやアロエベラ配合など)は、ガーゼや綿球に少量をとって出血部位や固定したスプリント周辺に塗布し、局所的な抗菌バリアを形成。特に固定材の境界部は細菌が溜まりやすいため、抗菌ジェルを薄く重ね、24時間ごとに塗り替えると効果的です。どちらも長期連用は避け、5〜7日以内を目安に歯科医師の指示で使用を終了しましょう。

 

・食事/咀嚼制限と口腔清掃のコツ

固定中や腫れ・痛みが残る間は、柔らかい食品(おかゆ、スープ、ヨーグルト、蒸し野菜ペースト)を選び、痛みのある側で咀嚼せず、反対側のみで軽く噛むようにします。ビタミンC・タンパク質を十分に摂ることで組織修復を促進。口腔清掃は柔らかめの超先細毛歯ブラシを用い、スプリント周辺はブラシを45度に傾けて歯茎の境界をソフトにマッサージする要領でプラークを落とすのがコツです。歯間ブラシやデンタルフロスは、スプリントを押し外さないように注意し、清掃後は必ず洗口でジェルを洗い流します。腫れや痛みが強い場合は、冷たい水や薄めた塩水で優しくうがいを繰り返し、口腔内を清潔に維持することが重要です。

 

 

歯科医院で行う歯髄温存治療の選択肢

精密根管治療の効果と成功率

・覆髄(部分覆髄・全面覆髄)の適応基準

覆髄とは、虫歯や打撲などで露出した歯髄(神経)を化学的・物理的に保護し、保存を図る治療法です。部分覆髄(直接覆髄)は、露出部が小さく、出血量が少ない(1分以内に止血可能)健全歯髄に対して行います。テストで冷温刺激に正常反応があり、持続痛や拍動性痛がない場合が適応です。

一方、露出面積が広い、あるいは細菌汚染のリスクが高い場合は全面覆髄(間接覆髄)を検討します。全面覆髄は、齲蝕除去後に透明感ある薄い象牙質残存層を確保しつつ、象牙質の表層をあえて残して生活歯髄への直接的な薬剤刺激を避ける手技です。いずれも術前に電気歯髄診断やレントゲン検査で深部病変の有無を確認し、1次的に保存できるかを総合判断します。

 

・MTA・カルシウム水酸化物の使い分け

覆髄材には従来から使用されてきたカルシウム水酸化物と、近年普及したMTA(Mineral Trioxide Aggregate)があります。カルシウム水酸化物は強い抗菌性と歯髄刺激性が特徴で、部分覆髄の初期症例では迅速な仮封材として有効ですが、時間経過とともに溶解しやすく、長期的な封鎖性や硬組織誘導能はMTAに劣ります。

MTAは封鎖性が極めて高く、生体適合性にも優れ、厚い保護層を形成して象牙質様硬組織の再生を促します。特に全面覆髄や深い露出部、再治療が困難な難易度の高いケースではMTAを選択し、初期シーリングから長期的な経過観察まで安定した結果を得やすいのがメリットです。治療費や操作性を考慮し、浅い露出にはカルシウム水酸化物、難症例や再発予防を重視する場合はMTAを使い分けます。

 

・ラバーダム防湿の重要性

ラバーダム(ゴム製の歯科用絶縁シート)による防湿は、歯髄温存治療の成否を左右する最重要ステップです。口腔内には常に唾液中の細菌や酵素、血液・組織液が存在し、覆髄材や接着材料への混入は硬化不良、封鎖不良につながり、細菌侵入を招きます。

ラバーダムをかけることで、治療部位を完全に唾液から遮断し、無菌的な環境を確保。加えて、視野をクリアにして歯冠形成や露出部処理を正確に行えるため、薬剤の適切塗布量や硬化確認も容易になります。術後のシーリング不良を防ぎ、歯髄刺激や歯根管への細菌拡散を最小化することで、覆髄後の神経可逆性回復率を飛躍的に高め、長期的な歯の保存に貢献します。治療中の唾液混入を完全に排除できるラバーダムは、歯髄温存を成功に導く必須アイテムです。

 

 

根管治療導入の判断基準

・非可逆性歯髄炎 vs 壊死歯髄の鑑別ポイント

顔面打撲後の歯髄炎は、可逆性(回復可能)と非可逆性(回復困難)に大別されます。非可逆性歯髄炎では、冷水テストで「強い痛みが10秒以上持続」または「拍動性痛」が続き、熱刺激テストでも「遅延痛」が顕著です。さらに、電気歯髄診断で閾値(mA)が低すぎるか、高すぎて無反応であれば、神経細胞が高度に炎症または壊死しているサインです。一方、壊死歯髄は冷温・電気いずれのテストにも「無痛無反応」を示し、歯髄内部の完全壊死を示唆。変色やフィステル形成など臨床的に敗血症状を呈する場合も多く、この両者を正しく鑑別することで、覆髄や部分的処置ではなく速やかな全抜髄・根管治療の必要性を判断します。

 

・レントゲン・診断テスト総合評価フロー

根管治療の導入判断は、レントゲン像と各種テスト結果を総合して行います。まずパノラマおよびデンタルX線で根尖部に「透過像」や「骨吸収像」が見られるかを確認し、根尖性炎症の有無を把握。次に冷温刺激テストと電気歯髄診断の結果を比較し、神経生存性の有無を判定します。CO₂診査で回復力を評価し、内出血による黄褐色変色や晩発性変色が進行していれば、炎症が根管内で慢性化している可能性が高いと判断。これらのデータをフローチャート化し、「透過像+無反応」「透過像+持続痛」「変色+強い反応持続」の組み合わせで根管治療導入とその優先度を決定。臨床所見とテスト結果の整合性を慎重にチェックして、誤診を防ぎます。

 

・治療開始の最適タイミング

根管治療は、早すぎても過剰な侵襲になり、遅すぎると歯周組織への感染波及リスクが高まります。最適なタイミングは、非可逆性歯髄炎のサインを確認した直後から48時間以内とし、拍動痛・高閾値無反応・レントゲン透過像いずれか二つ以上を満たした場合はただちに治療開始を推奨します。初期段階では鎮痛と抗菌投与で炎症を抑制しつつ、歯髄壊死が確定すれば速やかに抜髄・根管形成を実施。フィステルや腫脹がある場合は、まず排膿と抗菌処置を行いトラブルをコントロールしたうえで、48~72時間以内に根管治療を完遂できる体制を整えます。適切なタイミングでの治療開始が、予後良好な歯の長期保存につながります。

 

 

Q&Aで学ぶ!受診タイミングと予後管理

Q1: 打撲から何日以内に受診すべき?

顔面打撲後、歯の神経や根尖周囲組織の損傷リスクを最小化するためには、できれば24時間以内、遅くとも48時間以内の受診が望まれます。受傷直後は痛みや動揺がなくても、歯髄内の血流障害や微小骨折によるダメージが進行しやすいため、自己判断で放置すると翌日以降に激痛や変色、腫脹といった症状が急速に悪化します。特に、冷温刺激テストや打診テストで異常反応を感じた場合、あるいは歯の色調変化を自覚したら、速やかに歯科医院でレントゲン診査と電気歯髄診断を行い、初期の歯髄保存処置や根管治療の必要性を早期に判断してもらいましょう。

 

Q2: 痛みが消えたら安心?その後の注意点は?

打撲後の痛みが数日で消失しても、安心は禁物です。痛みが引くのは歯髄神経が壊死に向かうサインの場合があり、内部で炎症が慢性化していることもあります。この段階で放置すると根尖部に骨吸収やフィステル(膿瘍口)が形成されるリスクが高まり、将来的に抜歯や外科的処置が必要になる恐れがあります。痛みが消えた後も、1週間後、2週間後の冷温刺激テストおよび打診テストで反応の有無を確認し、特に変色や鈍い違和感が残る場合は再受診を。自己判断で検査を中断せず、経過観察のための予約を必ず継続してください。

 

Q3: 定期フォローアップの間隔と検査内容は?

初期受診後は、1週間後→1か月後→3か月後を目安に定期フォローアップを行い、電気歯髄診断・CO₂診査・打診テストを組み合わせて神経生死の変化を追跡します。併せてデンタルX線で根尖部の骨透過像の有無を確認し、歯根破折や根尖病変を早期に検出。3か月以降は、炎症所見が安定していれば半年ごと→1年ごとのペースで臨床テストとレントゲン検査を継続し、経年的な変色や歯冠支持組織の状態をモニタリングします。定期検査では、冷温・電気診断の反応閾値を記録して比較し、異常が再発した場合は速やかに追加治療を計画。こうした継続的なフォローが、歯を長期にわたり健康に維持する鍵となります。

 

 

 

汐留駅から徒歩5分の歯医者・歯科
患者様の声に耳を傾ける専門の歯科クリニック
監修:《 オリオン歯科 NBFコモディオ汐留クリニック 》
住所:東京都港区東新橋2丁目14−1 コモディオ汐留 1F
電話番号 ☎:03-3432-4618

*監修者
オリオン歯科 NBFコモディオ汐留クリニック東京
ドクター 櫻田 雅彦
*出身大学
神奈川歯科大学
略歴
・1993年 神奈川歯科大学 歯学部
                 日本大学歯学部大学院博士課程修了 歯学博士
・1997年 オリオン歯科医院開院
・2004年 TFTビル オリオンデンタルオフィス開院
・2005年 オリオン歯科 イオン鎌ヶ谷クリニック開院
・2012年 オリオン歯科 飯田橋ファーストビルクリニック開院
・2012年 オリオン歯科 NBFコモディオ汐留クリニック開院
・2015年 オリオン歯科 アトラスブランズタワー三河島クリニック 開院
*略歴
インディアナ大学 JIP-IU 客員教授
・コロンビア大学歯学部インプラント科 客員教授
・コロンビア大学附属病院インプラントセンター 顧問
ICOI(国際口腔インプラント学会)認定医
・アジア太平洋地区副会長
・AIAI(国際口腔インプラント学会)指導医
・UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)インプラントアソシエーションジャパン 理事
・AO(アメリカインプラント学会)インターナショナルメンバー
・AAP(アメリカ歯周病学会)インターナショナルメンバー
・BIOMET 3i インプラントメンター(講師) エクセレントDr.賞受賞
・BioHorizons インプラントメンター(講師)
日本歯科医師会
日本口腔インプラント学会
日本歯周病学会
日本臨床歯周病学会 認定医
ICD 国際歯科学士会日本部会 フェロー
JAID(Japanese Academy for International Dentistry) 常任理事

一番上に戻る一番上に戻る
03-3432-4618047-441-4618 初診専用WEB予約初診専用WEB予約 アクセス 問診票